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広島高等裁判所 昭和46年(行コ)1号 判決

広島市草津南三丁目一の六

控訴人

飯島忠夫

右訴訟代理人弁護士

阿左美信義

同市加古町九番一号

被控訴人

広島西税務署長

吉岡実

右指定代理人

大道友彦

松田良企

島津巌

有藤秀樹

右当事者間の所得税賦課決定取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原判決中控訴人の昭和三五、三七年度分の所得認定処分に関する部分を次のとおり変更する。

一、被控訴人が、昭和三九年七月二七日付で控訴人に対してなした、控訴人の

(一)  昭和三五年度分の総所得金額を二九三万一、三七二円と認定した処分のうち、二五五万一、八四六円を超える部分

(二)  昭和三七年度分の総所得金額を三一九万八、六三一円と認定した処分のうち、三一六万九、五五二円を超える部分

は、これを取消す。

二、控訴人のその余の請求を棄却する。

被控訴人の、昭和三四、三六、三八年度分の所得認定処分に関する、控訴人の控訴を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを一五分し、その一を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を次のとおり変更する。被控訴人が昭和三九年七月二七日付で控訴人に対してなした、控訴人の、(一)昭和三四年度分の総所得金額を一六〇万〇、七九八円と認定した処分、(二)昭和三五年度分の総所得金額を二九三万一、三七二円と認定した処分のうち、一四万四、〇〇〇円を超える部分、(三)昭和三六年度分の総所得金額を三八六万七、一一六円と認定した処分のうち、八万八、〇〇〇円を超える部分、(四)昭和三七年度分の総所得金額を三一九万八、六三一円と認定した処分のうち、七万六、〇〇〇円を超える部分、(五)昭和三八年度分の総所得金額を八二二万八、一四二円と認定した処分のうち、八万八、〇〇〇円を超える部分をいずれも取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一、原判決四枚目裏最後の行の、「福田一夫」とある次に、「または訴外吉田次良」と付加する。

二、同五枚目表七行目の、「右利息の収受の主体は」とある次に、「右福田一夫または吉田次良であり、」と付加する。

三、同頁の八行目と九行目との間に、次のとおり加える。

四、仮に、控訴人が被控訴人主張のような利息、損害金収入を得ていたとしても、被控訴人の本件認定処分には次のような違法事由があるから、同処分は、取消されるべきである。

(一)  右利息あるいは損害金中には、利息制限法所定の制限を超過する部分(元本発生年月日等が不明であつて、具体的金額を特定し得ない)が含まれているところ、控訴人は右制限超過部分を元本に充当した。従つて、被控訴人主張の利息、損害金のうち、右制限超過部分は、結局元本の回収であつて、旧所得税法(昭和二二年法律第二七号)一〇条一項にいう「収入すべき金額」に該当しない。

(二)  被控訴人主張の昭和三八年度中に発生した利息、損害金中には、被控訴人の主張するもの以外にかなりの未収利息が含まれているところ、右未収利息中利息制限法所定の制限超過部分もまた、前記の「収入すべき金額」に該当しない。

四、原判決五枚目裏三行目の末尾に、次のとおり付加する。

なお、右別表の支払利息(別表の〈1〉の合計額)の内訳は、次のとおりである。

(一)  昭和三四年度分の一六〇万一、七五八円および昭和三八年度分の八一七万二、八三一円は、すべて、広島工業の帳簿に記載されている既収利息である。

(二)  昭和三五年度分の二八〇万二、二二二円は、次の金額の合計額である。

(1)  広島工業の帳簿に記載されている既収利息二四二万二、八八八円。

(2)  利息を貸付元本に組入れたもの三三万八、五六二円。

(3)  吉田次良名義預金に入金されているもののうち、広島工業の帳簿に記載されていないで利息収入と認めたもの四万〇、七七二円。

(三)  昭和三六年度分の三五五万二、三〇七円は、次の金額の合計額である。

(1)  広島工業の帳簿に記載されている既収利息二九三万六、八一九円。

(2)  利息を貸付元本に組入れた五七万〇、八六一円。

(3)  吉田次郎名義預金に入金されているもののうち、広島工業の帳簿に記載されていないで利息収入と認めたもの四万四、六二七円。

(四)  昭和三七年度分の三一七万〇、五四九円は、次の金額の合計額である。

(1)  広島工業の帳簿に記載されている既収利息三一〇万一、二〇九円。

(2)  訴外尼崎製鉄株式会社振出の手形の割引料二万五、五〇〇円。

(3)  吉田次郎名義預金に入金されているもののうち、広島工業の帳簿に記載されていないで利息収入と認めたもの四万三、八四〇円。

次に、控訴人は、本件係争年度中はもとより、昭和四九年四月三日広島工業との間で訴訟上の和解をするに至るまでの間において、収受した利息のうち利息制限法による制限超過部分を元本に充当する処理をしたことはない。

五、控訴代理人は、甲第四七号証の一から八まで、第四八号証、第四九、五〇号証の各一、二、第五一号証の一から一二まで、第五二号証の一、二、第五三、五四号証を提出し、当審証人山本喜一の証言、当審における控訴人本人尋問の結果を援用する、と述べた。

被控訴代理人は、甲第四九号証の一、二は原本の存在および成立を知らない、甲第五三、五四号証の成立を認める、その余の当審提出の甲号各証の成立を知らない、と述べた。

理由

一、原判決の請求の原因一、二項記載の事実および控訴人が昭和三五年度に一四万四、〇〇〇円、昭和三六年度に八万八、〇〇〇円、昭和三七年度に七万六、〇〇〇円、昭和三八年度に八万八、〇〇〇円の各給与所得を得たことは、当事者間に争いがない。

二、そこで、まず本件貸金の主体について考えてみる。

成立に争いのない甲第三一号証から第三五号証まで、乙第七号証の一から六まで、第一〇号証の一から一四まで、第一一号証の一から一〇まで、証人網谷敏の証言により真正に成立したものと認められる甲第一九号証、原審における控訴人本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる甲第二九号証の一、二、原審証人山本喜一の証言(第一回)によつて真正に成立したものと認められる乙第一、二、三号証、その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第四、五、六、九、一三号証、原審証人森清の証言により真正に成立したものと認められる乙第八号証の一から四まで、原審証人網谷敏、同網本網一、同森清、同三輪良亮、原審(第一、二回)および当審証人山本喜一の各証言、当審における控訴人本人尋問の結果(一部)並びに弁論の全趣旨を総合すると、次のとおりの事実を認めることができる。

(一)  広島工業は、空気機械その他の機械工具類の製造および修理等を目的とし、昭和三二年当時資本金九〇〇万円、月産約一、〇〇〇万円の会社であつたが、同社の常務取締役であつた訴外俵千秋が不二建設の代表者である控訴人と知合であつたところから、本件係争年度以前から、控訴人個人から融資を受けてきた。右融資の過程において、広島工業の取締役総務部長であつた訴外山本喜一が同会社を代理して、貸金の受領および返済、利息その他諸条件の話合等一切の交渉を控訴人との間で行つてきた。そして、広島工業は、本件係争年度中においても、貸主が控訴人個人であるか不二建設であるか、あるいはそれ以外の第三者であるかはしばらく別として、同様の方法で多額の融資を受け、これに対する利息を支払つてきた。そして、右融資金の元本の返済および利息の支払の方法は、いずれも広島県厚生信用組合草津支店の吉田次良名義の普通預金口座に入金することによつてなされていたが、右預金の払戻および預入は、常に控訴人が自ら同支店に出向いて行つていた。

(二)  広島工業は、昭和三九年四月初め、控訴人個人を相手方として、前記貸金債務の支払方法に関して、広島簡易裁判所に調停を申立て、申立の理由として、広島工業は昭和三二年ころから数十回にわたり控訴人から金員を借受けたが、高利のため支払に窮しているので、適正方法による支払を求める旨主張したのに対し、控訴人は、前後一〇回にわたる調停の席上(代理人による出頭の場合を含めて)で、右貸金の貸主は自分ではない旨を主張したことは一度もなかつたが、右調停は、結局、不成立に終つた。

(三)  不二建設は、主として土木工事を営業目的とする会社であるが、営業成績は本件係争年度を通じて不振で、決算は赤字かあるいは少額の黒字の期が殆んどであり、その決算書類に本件のような貸付金の記載は一切なく、また、利息収入も毎期一万円未満であるか、多くとも三万数千円に止つている。

(四)  控訴人主張の福田一夫あるいは吉田次良なる人物は、その住所不明であつて実在すら疑わしく、しかも、広島工業が支払つた本件借入金の元本の返済および利息の支払は、控訴人が福田一夫あるいは吉田次良が広島工業に融資を初めたと称する昭和三五年六月より以前である昭和三四年三月以前から、前記吉田次良名義の普通預金に入金されており、しかも、その払戻および預入は、前記のように控訴人が行つていた。

以上認定の諸事実に照らすと、広島工業が控訴人を通じて借受けた金員の貸主は、控訴人主張の福田一夫、吉田次良もしくは不二建設ではなく、控訴人自身であると認定するのが相当である。原審証人網本綱一、同岡村寿の各証言、原審および当審における控訴人本人尋問の結果中、以上の認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

三、次に、控訴人が本件係争年度中に広島工業から支払を受けた利息の金額について検討する。

(一)  昭和三四年度分について

前掲乙第一号証および原審証人山本喜一の証言(第一、二回)によると、控訴人は、昭和三四年度中に広島工業から利息として一六〇万一、七五六円の支払を受け、戻し利息九六〇円を返還し、結局、同年度中に一六〇万〇、七九八円の利息収入たる雑所得を得たことが認められる。

(二)  昭和三五年度分について

(1)  前記乙第一号証および原審証人山本喜一の証言(第一、二回)によると、控訴人は、昭和三五年度中に広島工業から利息として二四二万二、六九六円)被控訴人の原審における昭和四二年七月六日付準備書面の別表二の(1)の合計額二四二万二、八八八円とあるのは、二四二万二、六九六円の違算と認められる。なお、同表の昭和三五年一〇月二二日の欄に一、五一六円とあるのは、一、三一六円が正しいと認められる。)の支払を受け、戻し利息一万四、八五〇円を返還し、結局、同年度中に二四〇万七、八四六円の利息収入たる雑所得を得たことが認められる。

(2)  被控訴人は、控訴人の同年度中の利息収入として右のほかに、未収利息を元本に組入れたものが合計三三万八、五六二円、吉田次良名義の普通預金に入金されているもののうちで、広島工業の帳簿に記載されていないが利息収入と認められるもの四万〇、七七二円がある旨主張する。そこで、これらについて考えてみる。

(イ) 未収利息の元本組入分について

前掲乙第八号証の二および原審証人山本喜一の証言(第一回)によると、被控訴人主張の組入額が三三万八、五六二円あることが認められる。一般に、未収利息であつても利息債権として法律上権利の行使が可能となつた以上、消費貸借契約上の貸主の所得となることは、被控訴人主張のとおりである。

しかしながら、同証人の証言(原審第一回)および弁論の全趣旨によると、控訴人の広島工業に対する貸金の利率は、月五分または日歩一八銭(年利六割五分七厘)の二種類であつて、利息制限法による制限を超過したものであるから、被控訴人主張の右未収利息中には、利息制限法所定の制限内のものと、同制限を超過するものとが含まれておるが、その両者の金額がそれぞれいくらであるかは、計算の基礎となる元本の金額等が不明であつて、これを確定し得ないものであることが認められる。ところで、利息制限法による制限超過利息は、現実に収受された場合には貸主の所得として課税の対象となるが、約定の履行期が到来してもなお未収である限り収入実現の蓋然性がなく、旧所得税法(昭和二二年法律第二七号)一〇条一項にいう「収入すべき金額」に該当せず、課税の対象となるべき所得を構成しないものである(最高裁判所昭和四六年一一月九日言渡第三小法廷判決、民集二五巻八号一、一二〇頁参照)。そして、本件のように利息制限法による制限超過の未収利息を元本に組入れただけでは、いまだこれを現実に収受した場合と同視することができないのはもとより、収入実現の可能性が特に高まつたものとも言えない。従つて、これら制限超過利息は、昭和三五年度中においては、いまだ控訴人の所得を構成しないものというべきである。そして、控訴人の昭和三五年度中における未収利息のうちには、利息制限法による制限超過部分と制限内の部分とがあつて、制限内の金額がいくらであるかを確定し得ないものであるから、右未収利息全部を所得から除外し、その現実に収受せられた時点において、これを所得として計上するのが相当である。それ故、右未収利息の元本組入分三三万八、五六二円は、控訴人の昭和三五年度中の所得を構成しないものというべきである。(なお、原審証人山本喜一の証言(第二回)によると、これら組入額は、現実に支払われた時点において、広島工業の帳簿に支出として記帳せられていることが認められる)。

(ロ) 吉田次郎名義の普通預金に入金分について

前掲乙第八号証の三によると、被控訴人主張の四万〇、七七二円の入金のあることが認められるけれども、同号証のみによつては右入金が貸金利息であるとは断定し難く、他に右入金が貸金利息であることを認めるに足りる証拠はない。それ故、右吉田次良名義普通預金入金の四万〇、七七二円もまた、控訴人の昭和三五年度中の雑所得には該当しないものというべきである。

(三)  昭和三六年度分について

前記乙第一号証および原審証人山本喜一の証言(第一、二回)によると、控訴人は、昭和三六年度中に広島工業から利息として二九三万六、八一九円の支払を受け、これと同額の雑所得を得たことが認められる。被控訴人は、控訴人の同年度中の利息収入として右のほかに、未収利息を元本に組入れたもの五七万〇、八六一円、吉田次郎名義の普通預金に入金されているもので、広島工業の帳簿に記載されていない利息四万四、六二七円、未収利息二二万六、八〇九円がある旨主張するが、これらは前記(二)の(2)において述べたのと同様の理由により、いずれも雑所得に該当しないものというべきである。

(四)  昭和三七年度分について

前掲乙第二、一三号証、原審証人山本喜一の証言(第一、二回)によると、控訴人は、昭和三七年度中に広島工業から利息三一〇万一、一〇九円(被控訴人の前記準備書面の別表四の(1)の合計額三一〇万一、二〇九円とあるのは、三一〇万一、一〇九円の違算と認められる。)および手形割引料二万五、五〇〇円の合計三一二万六、六〇九円の支払を受け、戻し利息三万三、〇五七円を返還し、結局、同年度中に三〇九万三、五五二円の利息収入たる雑所得を得たことが認められる。被控訴人は、控訴人の同年度中の所得としてこのほかに、吉田次郎名義の普通預金に入金されているもので、広島工業の帳簿に記載されていない利息四万三、八四〇円および未収利息二一万一、九四八円がある旨主張するが、これらは、前記(二)の(2)において述べたのと同様の理由により、いずれも雑所得に該当しないものというべきである。

(五)  昭和三八年度分について

前掲乙第三号証、原審証人山本喜一の証言(第一、二回)によると、控訴人は、昭和三八年度中に広島工業から利息八一六万七、八三一円および貸金謝礼五、〇〇〇円の合計八一七万二、八三一円の支払を受け、戻し利息三、〇九四円を返還し、支払利息一、二〇〇円を支払い(この点は、被控訴人の自認するところである。)、結局、同年度中に八一六万八、五三七円の利息および謝礼収入たる雑所得を得たことが認められる。被控訴人は、控訴人の同年度中の所得としてこのほかに、未収利息一八万三、五五三円がある旨主張するが、これは、前記(二)の(2)において述べたのと同様の理由により、雑所得に該当しないものというべきである。

四、控訴人は、仮に、控訴人が以上のような利息の支払を受けたとしても、控訴人はそのうち利息制限法による制限超過部分を元本に充当する処理をしているので、その部分は結局元本の回収に帰し、所得を構成しない旨主張するが、広島工業が前記のとおり本件係争年度を通じ控訴人に対し多額の利息を支払つてきている事実に、成立に争いのない乙第七号証の一から六まで、原審証人山本喜一の証言(第一、二回)を総合すると、控訴人は、本件決定処分が行われた昭和三九年七月二七日までの間に、利息制限法による制限超過利息を元本に充当する処理をしたことはないことが認められ、甲第五三号証も右認定を覆すに足らず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

五、以上によれば、控訴人の総所得金額は、昭和三四年度が雑所得のみの一六〇万〇、七九八円、昭和三五年度が給与所得一四万四、〇〇〇円および雑所得二四〇万七、八四六円の合計額である二五五万一、八四六円、昭和三六年度が給与所得八万八、〇〇〇円および雑所得二九三万六、八一九円の合計額である三〇二万四、八一九円、昭和三七年度が給与所得七万六、〇〇〇円および雑所得三〇九万三、五五二円の合計額である三一六万九、五五二円、昭和三八年度が給与所得八万八、〇〇〇円および雑所得八一六万八、五三七円の合計額である八二五万六、五三七円となる。それ故、被控訴人の昭和三五、三六、三七年度の本件認定処分中右金額を超える部分は違法として取消を免れないが、その余の部分は適法である。従つて、原判決中昭和三五年度および昭和三七年度の認定処分に関する部分は、右と結論を異にする限度で不当でありその点の控訴は一部理由があるから、変更されるべきであるが、原判決中その余の部分は正当であつて、これに対する控訴は理由がなく棄却を免がれない。

よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮田信夫 裁判官 高山健三 裁判官 武波保男)

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